最近、動物好きライターとして、Instagramのリール動画で目が離せない子がいる。
市川市動植物園にいる小さなニホンザルが、でっかいオランウータンのぬいぐるみを引きずって歩いたり、ぎゅーってしがみつくやつ。そう、パンチくん!
人間ってこういうのに弱いよね……と客観的に眺めていたつもりが、気づいたらガッツリ感情移入していた。
そしてこの「パンチくん効果」で、IKEAのオランウータンのぬいぐるみが品切れ続出になっているという。しかも、日本だけでなく、米国・韓国・シンガポールなど複数国で。。。
ITmediaの連載でも「2月下旬時点で日本のIKEA店舗・オンラインで在庫切れが続いた」と紹介されていた。 (参照:「パンチくん動画」はなぜバズったのか? IKEAで品切れ続出、150億ドルのぬいぐるみ市場)
娯楽に溢れた令和の時代に、「オラウータンのぬいぐるみが世界規模で爆売れする」という、ちょっと奇妙で面白い現象が起きているのだ。
まず、パンチくんって何者?
パンチくんは、千葉県の市川市動植物園にいるニホンザルの男の子。2025年7月26日生まれ。
母ザルが育児に関心を示さず、飼育員さんの人工哺育で育ったという経緯がある。
小ザルたちは、本来、母ザルにしがみつくことで安心したり、筋力をつけたりする。
飼育員さんが母ザルの代わりとしてタオルやぬいぐるみを用意したところ、パンチくんのお気に召したのが、例のオランウータンのぬいぐるみ(通称 オランママ)だった。
2026年3月時点では、同動物園の猿山に合流し、まだまだ群れのルールを学んでる最中。
不安になるとオランママのところに戻って、抱きしめて落ち着いて。それでも諦めずに、群れに向かう姿が健気すぎて、日本中の母性を爆発させているのだ。
IKEAのオランウータンが爆売れした経緯
この「通称 オランママ」の正体は、IKEAの「DJUNGELSKOG(ジュンゲルスコグ)」シリーズの一種類。
IKEA公式サイトでは、「このソフトトイは、本物のサルが熱帯雨林で木に登ったりぶら下がったりするように、腰や背中にしがみつくよ。オランウータンは絶滅しそうな動物のひとつ。しがみつくのが大好きなこのオラウータンのことも大切にしてね」と紹介されている。
高さ36cm、税込み1499円だ。

オランママが爆売れした流れを、あらためて整理するとこうなる。
- パンチくん動画がバズる
- 「このぬいぐるみ何?」と特定班が動く
- IKEAのぬいぐるみであると判明
- 「私も欲しい」と買いに走る人が増える
- 在庫が一気に消える
この一連のスピード感が、とにかく早い。
この流れに近いものとして、記憶に新しい「ラブブ(LABUBU)ブーム」がある。
海外セレブがバッグに付けていたのをきっかけに、「これってラブブでは?」とSNSで話題が加速し、瞬間的に需要が跳ね上がったという経緯だ。
私が暮らす地方でも、ラブブをバッグにつける若者(小学生まで…!)が一気に増えて驚いたのを覚えている。
今回のオランママの爆売れも、「子ザルとぬいぐるみの絆」という物語から広がり、購買が一気に加速。瞬間風速的に品切れへ向かう構造はラブブと近しいものを感じる。
ぬいぐるみ市場、実はガチででかいらしい
急に経済の話になるが、ITmediaの記事では「世界のぬいぐるみ市場規模は約138〜150億ドルと見積もられ、今後も成長が見込まれている」と紹介されている。
正直、最初は「ぬいぐるみって、そんなに売れるの?」と意外だった。
よく読んでいくと、「キダルト(Kidult)」呼ばれる「子ども向けのイメージが強いものを趣味として楽しみ、買う大人」がいることが分かった。
日本でも、キダルト人口が推定約535万人、市場規模は約780億円弱という推計が出ているというのだ…!(参照:【キダルトに関する実態調査】キダルト市場は800億円弱、キダルト人口は535万人規模と推定 )
約535万人もの日本の大人が、ぬいぐるみやフィギアを趣味として楽しんでいる?……自宅に一つのぬいぐるみも置いていない自分としては、かなり衝撃の数字だった。
つまり、ぬいぐるみは、子どものおもちゃにとどまらず、大人が自分のために買うものとして立派な経済圏になっているのだ。
そこに、パンチくん効果による、オランママの爆売れが重なった。
ぬいぐるみ業界の視点で見ると、これまでの王道だった「セレブ発信」がなくとも、世界規模の需要につながり得る。そんな可能性を示した出来事だったのかもしれない。
パンチくんの物語を悪用する人間、許すまじ
この話深掘りしていくと、パンチくんが多くの人に愛されてうれしい反面、動物好きとして複雑な気持ちも出てくる。
動物園の来園者が増え、園にお金や人が流れることは、健全な運営だけでなく、保全や飼育環境の向上にもつながるだろうだろう。
でも怖いのは「この型、バズる」って学習した人間が、次を作りたがることだ。
今回の事例で「動物×救済×ぬいぐるみ×泣けるストーリー」が、めちゃくちゃ拡散に向いてることが明るみになった。
だからこそ、悪用されやすい。
バズるために動物を危険に置く事例が相次いでいるのだ。
実際、Asia for Animalsの情報では、SNS上での6週間の調査で1000本超のフェイク救出動画が見つかり、5.72億回以上再生されていた、という報告がある。 (参照:Spot the Scam: Unmasking Fake Animal Rescues)
パンチくんの物語を、利益のために利用し消費する人間がいる世界、シンプルに嫌だ。
それでも私は、パンチくんの話が好き
そんなことを考えながら、改めてパンチくんの動画を見る。懸命に生きる彼の姿が、よりいっそう眩しく、キラキラとした塊のように感じられる。
パンチくんが抱いてるのって、ぬいぐるみそのものというより、心のよりどころなんだろうな。
知らない群れに入るのって人間でも怖い。まして、まだ子どもで、母に抱かれて育った経験が薄いなら、なおさら。
パンチくんはいつか、オランママから卒業する。飼育員さんも「必要としなくなったら取る」と話している。
それは、自分自身が心のよりどころになる、本当の意味での自立であり、成長の証なのだろう。
パンチくん、今日もがんばれ。
そして人間は、バズるために動物を使わないでね💖

