フリーのライターとして活動する中で、単価交渉についてはよく耳にします。
「交渉しないと損をする」「言うべきことは言わないといけない」といった話も、決して珍しくありません。
ただ、正直に言うと、私はこれまで単価交渉をほとんどしてきませんでした。
交渉を避けていた理由は単純で、交渉を考える頃には、報酬以外の点で不満を感じていたり、別のスキルを身につけたいと思っていたりして、「今の仕事を続けるかどうか」を考える段階に入っていることが多かったからでした。
そのため、条件について話し合うよりも、自分の中で区切りをつけて次に進む、という選択をしてきました。
ただ一度だけ、その判断を先送りにしたまま仕事を続け、後悔している案件があります。
信頼関係のある人との仕事で後悔した話
その案件は、ある程度付き合いのある人が、個人でディレクションしているものでした。
仕事上のやり取りだけでなく、定期的にご飯に行くこともあるような関係で、条件面について強く警戒する気持ちは正直ありませんでした。
当初、ライターは私を含め2人体制でしたが、1人のライターが産休に入ることになり、しばらく私1人で対応することになりました。
本人からも「すぐ戻れると思う」と聞いていましたし、ディレクターの方からも「あなたの品質なら、2人分の本数を任せても問題ない」と言われていました。
2人分といっても月10本程度の原稿で、対応できない量ではありません。
その状態が3ヶ月ほど続いたあと、エンドクライアントから、ディレクターに任せる本数を増やしたいという話が出たそうです。
月の本数は20本になりました。
さすがに1人では執筆できないと伝えた結果、別のライターが2人アサインされ、ライターが3人の体制になりました。
納品後に報酬を下げたいと言われ、「自分が悪いのかもしれない」と思ってしまった
しばらくして、いつも通り請求書を作成して送ったところ、単価を下げてほしいと言われました。
提示された金額は、当初の約75%です。
しかもその変更は、翌月分からではなく、すでに納品を終えた分に対するものでした。
理由についての説明は特にありませんでした。
一般的な業務委託において、合意した条件のもとで完了した業務について、後から一方的に報酬を変更することは問題になります。
ただ当時の私は、毎月あらためて金額の合意を取り直していたわけではなかったこともあり、条件そのものよりも、「自分の仕事に何か問題があったのではないか」と考えてしまいました。
長く付き合いのある相手だったこともあり、その場で深く聞くことはできませんでした。
「何か修正が多かったのかもしれない」「期待に応えきれていなかったのかもしれない」。そんなふうに、理由を自分の中に探していました。
他のライターの条件を知り、判断を誤ったと気づいた
後日、別の案件で、後からアサインされたライターとミーティングをする機会がありました。
その中で、その人が最初から、私が下げてほしいと言われた金額(75%に減額された金額)でアサインされていたことを知りました。
このとき初めて、「品質が理由で単価が下げられたわけではないのかもしれない」と思いました。
おそらく、私の条件は、後から入ったライターに揃えただけなのだと思います。
さらに振り返ると、不思議に思う点はいくつかありました。
月ごとにキーワードや条件を管理するため、月別のタブで整理されたスプレッドシートを共有してもらっていたのですが、その数ヶ月間、単価の欄が空白になっていたこと。
以前の単価が書かれていたシートが、いつの間にか見られなくなっていたこと。
その後、単価の表記についても、税抜から税込に変更してほしいという話がありました。また当初想定されていた文字数は1本あたり5000〜7000文字程度でしたが、次第に最終的には1万〜2万文字規模の内容を含む原稿を書くことも珍しくなくなっていきました。
最終的には、条件に納得しきれないまま仕事を続けるよりも、きちんと区切りをつけたほうがいいと思い、案件を離れることを決めました。
まとめ|交渉しなかった後悔ではなく、考えることを怠った後悔
この出来事を振り返って思うのは、「単価交渉をしなかったこと」そのものを後悔しているわけではない、ということです。
あのとき、すぐに離れるか、続けるなら条件について話すかの、どちらかを選ぶべきでした。
信頼関係があるから大丈夫だろう、という油断。
「自分が悪いのかもしれない」と思い込んでしまった判断。
その結果、自分の立場が少しずつ削られていくラインを、見過ごしてしまいました。
そのディレクターとは、今は一緒に仕事をしていませんが、別件で時々やり取りをすることがあります。
もし次に話す機会があれば、当時の判断について聞いてみたいです。
単価交渉が得意でなくてもいい。
ただ、自分の立場を守るために確認すべきタイミングだけは、逃してはいけなかった。
今は、そう思っています。


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